でも、これだけで満足してはいけない。
私は初心者なのだから、手引書が必要だ。
雑誌コーナーで、『ギャル』が表紙のものを、ここでもすべて手に取っていく。
立ち読みしている部活帰りらしき高校生が、ぎょっとした顔でこちらを見るけれど、全然気にならない。
以前は周りの目が気になってしようがなかったのに、今はどうってことない。
今の私は勇気に満ちあふれている。
できる。
私には、なんだってできる。
レジでも店員から怪訝な目で見られたけれど、私は客だ。
しかもこんなにたくさん買い物をして、店にたくさん金を落としていくんだ、文句なんてあるまい。
両手いっぱいの荷物を抱えて、ふらつきそうになるのさえ愉快な心持ちで家路を急いだ。
やはり家には誰もいなくて、もうここは私の城だ。
リビングに買って来たものをばらまき、雑誌のメイク関連のページを読みあさった。
今まで触れることのなかった未知の世界。
目の周りは、ただ真っ黒に塗ればいいわけではなかった。
何事にもちゃんと手順があるのだ。
これは学校の勉強より難しいのではないだろうか。
しかも、まつ毛の生え際の粘膜にまでラインを引くなんて、勇気まで必要だ。
『ギャル』の見方が少し変わった。
案外ああいう人種というものは、賢い部分があるのかもしれない。
そしてヘアスタイルのページを読み進めて行くうちに、アリィのような金髪は染めるのではなく髪の色素を抜かなければならないことを知った。
ブリーチと言うらしい。
買ってきた染髪料を並べてみたら、そのブリーチという代物はひとつしかなくて、あとは白髪染めと、茶髪とも呼べないくらいにしか色のつかないヘアカラーだった。
ありったけ全種類買ってきて、まったく正解だった。


