あれは、去年の四月。


入学式直後のホームルームでのこと。




中学生になったばかりの緊張と照れ臭さに満ちた教室。


慣例のごとく行われていた自己紹介の、そのどれもが没個性的で、無難なものだったのは言うまでもない。


……たった一人を除いて。




「はじめまして、有田 淑子です。みんな絶対にアリィって呼んでください。

アリィの好きなものはイチゴとプリンセスグッズです。

よろしくお願いしまあす」




肩口の髪に指をからめながら、上目使いで、媚びるような猫なで声で、語尾を不必要に伸ばし、自分で自分をニックネームで呼び、

しまいにはぴょこん、とばかりにその場で飛んでみせた……要するにその『ぶりっこ』に教室中が凍てついた。


だって、そいつはどこからどう見たって可愛くないのだ。


というか、見事なまでの不細工なのだ。


それなのに本人は可愛い気まんまんで、しかも「これでクラス中の男子の恋心はつかめたわ」と言わんばかりの自信が表情からあふれていて、

私は鳥肌を立てて震え、おののき、他のクラスメート達も明らかに不快を隠せない様子だった。


どうやったらその顔でそこまでの僭越な意識が持てるようになるのか、その過程が不思議でならない。


当然のごとく、アリィはクラスで浮いた存在になり、以後形成されていったどの仲良しグループからもはじき出されることとなった。