一方、1人残されたシェルは、かろうじて息をしていた。

「───これほど、とは。まさか、いっしゅんとは。」

焼きつくされたシェルは、まだ少しは出る声帯を振るわせ、ひとりごちる。

こつこつ、こつこつ…

そんなシェルの方へ、一つの足音が近付いてくる。

「ぁ…あ…」

その姿を見て、シェルは嬉しそうに手を伸ばす。
もう、ほとんど力の入らない腕を必死に伸ばす。
震える腕は、黒く焦げ、動いているのも不思議なくらいで。
それでも、少しでも、その人に触れたくて。


しかし、あと少しで触れられる…というところで、その手を、つま先で蹴り飛ばされた。

「触るな!汚らわしい!!」

無情な言葉に、ほろほろと涙が溢れた。

「ごめんなさい…───さま」

呟いた言葉を、最後にシェルは砂のようにサラサラと崩れ、消えた。


「…役立たずが」

消えたシェルに、そう呟き、冷えた目で空を仰いだ。

空には、下弦の月が架かっていた。