わたし、カオは記憶喪失らしい。
けれど、家族のことも覚えてるし、自分が高校生だったことも友達だった子のことも、みんな覚えている。 それでも、記憶がないんだ、とリヒトたちは言う。

『思い出してほしい』と。

思い出してほしい、と言われても、何を思い出せばよいのかも分からないのに、無理だと思う。
しかし、私のまわりで起こる奇妙な事件が記憶と関係しているなら、私は思い出したほうがいいのかもしれない。


「カオ。また、あの事件おきたみたいだよ。」
朝。タケルが入れてくれたコーヒーを飲んでいると、そう言ってきた。
「…そう…」
眉間にシワがより、目を閉じる。
「カオも気をつけて?」
そう言って、頭を撫でられる。
「タケルもね?」
その手をとり、頬をすりよせた。



一年前、リヒトたちが現れてから住んでる家は、いつみても薄気味悪く、でもどこか懐かしい感じのする家だった。
「カオ!!待ってた!」
玄関に入ると、元気よく飛びかかってくる。
「ヒカル!?来てたの?」
思わず抱き止める。
ゴロゴロと猫のように顔をすりよせる。
「カオ…」
そっと袖を引っ張ってくるのは、ショウ。
「ショウも来てたんだ。」と、頭を撫でてあげる。
この見目麗しい双子は、出会ったときから、とにかくなついてくれている。茶色の髪に大きな瞳が印象的で、とても可愛く思う。私にとって、弟分のような存在だ。
「カオ。おかえりなさい」一歩おくれて、リヒトがやってくる。
笑顔が胡散臭くて、どうしても鼻につく。
何をされた覚えもないのに、私はどうしてもリヒトがイヤだった。
「…ただいま」
そっぽをむいて答える。
「…タケルは元気でしたか?」
もともと、リヒトとタケルが知り合いだった。その関係で、私もタケルと知り合えたのだ。その点は感謝している。
「誰かさんと違って、今日も優しかったわ」
ツンと嫌味を言った。
双子たちは笑い、肝心のリヒトは、苦笑しただけだった。