消え行く花のように





しばらくの沈黙――



目をそらさず睨み続ける俺の顔を見ていたミカエルが、不意に何か思いたったような表情を浮かべ、口を開いた。

「いいわ、ジュード・ヴァレンタイン。この子を離してあげる」

「……?」

ミカエルの意外な言葉に、思わず眉根をよせる。

「面白いわ、あなた」

「何?」

「交換条件よ。あなたがこのまま私について軍に来るなら、この子を離してあげる」

「な……?」

ミカエルが何を意図しているのかわからない。

「興味がわいたの……もちろん憲兵殺しの罰はそれなりにうけることになるでしょうけど、死刑にはならないように掛け合ってあげる」

「人間に俺が殺せるとでも?」

ミカエルの言葉に俺は薄笑いを浮かべて答えた。

「この国の軍をあまり侮らないほうがいいわよ? 何故私が、たかが殺し屋ひとりの抹殺の為に呼び出されたと思う?」

ミカエルは挑戦的な目をして笑みを返す。

「あなたが殺した憲兵の死体……あれを見て、あなたの素性に気付いた者がいるからよ? 実際にあなたを見るまではあたしも半信半疑だったけれどね」

「……なるほど? ある程度は知識のある者がいるということか」

「そういうこと。でも、あなたはとても興味深い存在ね……ただ殺すのは惜しいわ。素直に従えばうまくごまかしてあげる」

「まるで、おもちゃを欲しがる子供のような理屈だな?」

「悪い? でも欲しくなったの。従わないなら……」

そこで言葉を切ると、ミカエルはリエルに突きつけた剣先へ目線を流した。