消え行く花のように




ずっと忘れていた、遠い昔、初めて人を殺したときの感覚が、今ここにあった。

(何を今更……)

今まで数え切れぬほどの人間をこうして葬っておきながら、何故そんな、とうの昔に失った感覚に支配されるのか分からない。

目の前の光景が呼び覚ます、自分のとった行動の記憶が、鮮明に頭のなかで繰り返される程に、吐き気は強くなる。

だが、裏腹に『食事』を得た身体は、力を取り戻し活力を増していくのがありありと分かった。

「うわああああ!!」

不意に背後で叫び声が聞こえ、俺はゆらりと、声のほうへ身体の向きを変えた。

振り返った先には、地面に倒れている男と同じ詰襟の制服姿の若い男が、俺の血にまみれた手と、死んだ男をかわるがわる見ながら、ガクガクと震えながら立ち尽くしている。

(連れが、いたか)

軽くため息をつく。

(見られたか?)

ちらと、そう思ったがそれ以上は何も考えることができず……

俺は地面を蹴り、軽々と建物の屋根へと飛び上がり、常人ではありえないその行動を見て、声すら立てずにいる若い憲兵をその場に残し、そこから去った――