「皆が気にしている事をね」
「うん?奥歯に物が挟まった物言いやな」
「直ぐに分かるさ」
 店舗内に在る二階へと続く階段がギシギシと物音を発てる。三人の視線が一箇所に集まり、現れた人物に驚きの声を上げる。
「小夜子!」
 葵が真っ先に名前を呼び立ち上がり、小夜子が頷いて歩いて来る。
「久し振りだね。元気にしていたかい?」
 カジュアルな服装の小夜子が、何時もの明るく破壊的な勢いの口調で葵に話し掛ける。小夜子自身も大変な眼に遭っていた筈だが、そんな事はお構い無しとばかりに快活な声で話し乍葵の元に近付く。
「上の部屋に居てたんかいな?」
 関が驚きの声を上げ乍スツールから立ち上がり小夜子に席を譲る。流石に場の空気を一早く読んだのか、葵と小夜子の為に席を開けて私に視線を寄越して来る。
「今迄の経緯を掻い摘んで説明していたんだよ。無論和さんの紹介も含めてね。小夜子君自身、退院したのは今日の昼過ぎだが、今回の件には関係大有りだからね」
 私が関に話をすると、小夜子が後を受けて話し出す。
「そう云う事なんだ。色々とマスターに聞いたけど、驚き半分と嬉しさ半分だよ」
 小夜子が何時もの口調で元気に話をすると、私を除く全員が意外そうな表情を浮かべる。特に葵からすれば、自分の為に酷い眼に遭った本人が、その事に一切触れる事無く嬉しいと云う言葉を云えば驚くのは当然の事だ。
「でも、私の所為で酷い怪我をしたんだよ」
「馬鹿な事を云ったら駄目だよ。偶然僕が下敷きに成っただけで、逆も有り得たんだ。それを考えれば仕方無い事故だと思えば良いのさ。それより僕が嬉しいのは、葵君をイジメる阿呆が居なくなった事の方が大きいね」