「友達の子も大丈夫やから、安心して戻って来い」
 葵の意識が繋がっている。関はチャンスを逃す事が出来無いとばかりに葵に話し掛ける。葵の頬を伝う涙が増えて行く。私は恵の背をそっと押して葵の傍に座らせる。今恵が母として出来る事は、関が呼び掛ける様に、葵の閉じた心を開ける為の呼び掛けをする事だ。関は恵が傍に座ると交代する様に退く。
「……葵」
 複雑な感情が入り混じった声だ。自分の対応が原因で葵と小夜子が窮地に立たされた。分かり切っていると云える程に、行き着いた結果。母として何も出来無い自分への不甲斐無さと、葵の回復を切実に願う母性。絶望の淵を彷徨い続けた恵の只一つの希望である昏睡状態からの回復の兆し。恵は言葉に詰まり乍、何度も葵の名前を呼び続けていると、葵の顔に微かな変化が見られた。
 眉の辺りがピクリと動く。恵の声に葵の眠っている脳が反応している。私は奇跡や神は信じていないが、この時だけは信じたい気分に成る。
―目覚めてくれ!
 私は心の中で強く願い、葵の変化を察した恵は、今迄以上の声で何度も葵の名前を呼び続け、徐々に声が大きく成る
「お願い!葵……お願いだから戻って来て!」
 悲痛な声が部屋に木霊する。切なる母の願い。届く筈だと何度も心で願う中、葵の瞳が徐々に開かれる。
「葵!」 
 恵が一際大きな声を上げて葵に抱き付く。今迄意識不明だった葵が、恵や小夜子の声に呼び戻される様に意識を取り戻した。関も驚きの表情を浮かべ乍、葵の意識が戻った事を確認して恵の傍に座る。
「よう戻って来た」