「若しかしたら、ワシよりも声が届くかも知らん」
 関が希望を込めて私から携帯を受け取り、何度か言葉を交わした後に携帯電話を操作して葵の耳元に携帯電話を持って行くと、携帯電話から掠れた声が聞こえて来る。
「……僕は……随分寝ていた……見たいだね」
 携帯がスピーカーの様に成り小夜子の声が部屋に響く。憔悴した声ではあるが、何時もの小夜子節が薄れた気配は無い。
「……あの時の事故……気にする事は無いよ……僕は元気だから、葵君も落ち込む事は……無い……」
 小夜子の声はそこで途絶え、始の看護士の声に変わり、関が音量を下げてテーブルの上に携帯を置く。
「これ以上お話をさせる事は出来ませんけど、本人は元気ですよ」
「どんな状態や?」
「点滴で栄養を摂取しているだけだから、凄く体力の消耗が激しいけれど、命に別状は無いわ」
「日数さえ過ぎれば全快すると考えてええんやな?」
「大丈夫よ」
「分かった。その子の事は任したで」
 関がそこで通話を切り葵に視線を向け、私達も葵に視線を戻すと、一つの変化が見て取れた。
「……葵が」
 恵が震えた声で上手く喋る事が出来無い。葵の心を支えていた小夜子の存在の大きさを改めて感じさせられる。葵の頬に涙が流れている。
「ワシ等の言葉以上に、あの子の声と言葉が届いた見たいやな」
 関が安堵の溜め息を付く。冷静に見れば小夜子の声だけでは無く、関の言葉も届いていたのだろうが、最後の切欠を小夜子が与えたのは間違い無いだろう。私も葵の変化に本当に安心する。