「出国の手続きを済ましたそうじゃな」
 初老の男が緩やかに話を始めると、その言葉を受け、もう一人の男が楽しそうに答える。
「個人の伝で、無理矢理香港行きのチケットを取ったとか」
「無駄じゃな」
「本人は気が付いて無いでしょう」
「ワシ等の手から逃げる事等無理じゃ」
「確かに」
「さて。顛末が楽しみじゃ。本当のコマの醍醐味を味わえるとは羨ましいわい」
 初老の男は含み笑いを上げ、画面のモニターに映し出される疲れ果てた男の顔を見守る。撮影されているのは部屋の中。男が感じたのは決して疑心暗鬼では無く、実際にこの部屋に隠しカメラと盗聴器は仕掛けられていた。
「この場面迄観られるのは、私達だけですからね」
「最高のショーの巻く引きに相応しく、派手に散って欲しい物じゃ」
 初老の男は不適な意味を込めた言葉を吐き捨て、酒を片手に含み笑いを上げた。

 軽自動車の中。何処で調達したのか分からないが、私は歩道に止めたバイクに視線を送り乍車内で関と待ち伏せをして居る。
「手順の確認構わへんか?」
「ああ」
「一応最終確認をするで」
 手順としては簡単で、関は付け髭とサングラス等の一般的な変装のアイテムで顔を覆い隠し、車内でターゲットが勤めているビルの入り口から少し離れた場所で待ち伏せをする。その際顔を見られるのは勿論の事、目立つのは不味いと云うのが前提だ。その上で、尾行をする際はバイクと車に別れ、ある程度追い掛けた所で、関が相手の車に追突事故を起こすが、私は距離を測って関からの切欠を貰い事故の現場に滑り込み車を襲撃する。運転手は勿論、ターゲットの男以外の奴には申し訳無いが、軽く怪我をして貰う為に発砲をするが狙うのは足等だ。バイクと車は乗り捨て、襲撃が完了後素早く運転席に行き走り去る。