「多分、マスターの苦言が無かったらもっと酷い事に成っていたと思います。そんな時に、他人の私にマスターは手を差し伸べてくれたんです。まるで本当の家族の様で、兄の様に感じました……」
 恵はそこ迄喋ると黙り込み、私も言葉を無くす。私の存在が少なからず恵の為に成ったと云うのが分かって少しだけ安堵の溜め息が出る。こんな形でしか罪を償え無い私だが、最終的には良い方向に作用した様だ。
「まだ安心は出来無いが、私が云った苦言が通じていたのなら良かったよ」
「これからが、正念場ですよね?」
「そうだ」
私は決意を込めて恵に断言する。互いに世間と云う見えない怪物に複雑に絡まり合い乍も生きて来た。その人生の中で、こうして巡り合うとは正直思わなかった。この件が落ち着いたとしても、未来永劫兄だと名乗る事は無い。だが、何らかの形で償いたい気持は前以上に私の中で膨れ上がっている。互いに俯き若干の気不味さが流れ出した頃、入り口のドアが開かれ片桐がノソリと入って来る。
「今から少しだけバタ付くが気にするな」