狙い定めた人物が壊れて行く様は、男が予想した以上の精神的快楽を与え、人間が持つ闇の部分の共有と云う連帯感が、男の中に仲間意識を芽生えさせた。  
 無論、見学の段階迄には色々な取り決め等が有ったが、そんな物は全て口約束でしか無かった。信用云々等と云う、一般的な感覚を持ち込む必要の無い魑魅魍魎の類の集まりだったからだ。この国の実権を握っていると云える程の顔ぶれ。そのメンバーに選ばれたと云う愉悦感と、人間が壊れる様の二つが決め手と成り、何か問題が生じた際、メンバーには一切類を及ぼさないと云う、破滅的な腐敗臭から得られる快楽が男の血を掻き立てた。
 今迄は上手く行っていた。不定期に開催されると云うのが、更に男をのめり込ませた一つの要因に成っている。何時開催されるのか。ターゲットは如何成るのか。考えただけで魂が燃えるのを感じた。   
 表の顔は専務と云う肩書きと、毎月恐ろしい程の金が入るシステムは安定していた。何らかの問題が生じても、適当に切り抜ける事が出来る。それ程迄に男が見た世の中の人間は金に飢えていた。心の隙間を金で埋めると行っても良い。投資家達は警戒心が強い反面、巨額の金が入ると云う錯覚を与えれば、意外な程簡単に崩れ落ちた。適当な帳尻合わせだけで済む事務処理。後は営業の人間を適度に飴と鞭で使うだけで良い。単調な毎日だが、その退屈を忘れさせる人間賭博が、楽しみに成っていた。
 死の間際の人間が見せる絶望の顔。徐々に崩壊して行く自己。どれも通常では味わう事が出来無いスパイスだ。それに、どれだけ金が動いた所で揉める事は無い。金は賭博に参加するツール程度の扱いでしか無く、利益率等を気にする顔ぶれでは無い。その中で、男は徐々にゲームが齎す快楽に慣れ出し、遂には提案をしたく成った。もっと魂が燃える賭けをしたい。今以上に熱い張りを味わいたい。慣れとは恐ろしい物で、男は自分では気が付か無いだけで、既にあらゆる一線を飛び越え、今回のゲームマスターとして色々と提案をしたが、それが仇と成り、予想外の展開で自分の身に火の粉が降り掛かり出した。壊す側から壊れる側へは紙一重だ。男は本質部分の危険を見失い、危機管理が甘く成っていた。