短髪の男がシャガレた声で二人に声を掛けて歩き出す。ビルと云う建物が作り出す迷路。世間からの死角に成るには十二分だ。少年達は錆び付いた鉄の階段を上り、最上階迄カンカンと足音を響かせ乍黙々と歩いて行く。錆びの浮いた階段。老朽化の進んだ雑居ビルは、完全に廃墟と化しているのだろうか、テナントが入っている様子も無く、無論管理者も存在しない。大柄な男に抱えられた少年は、恐怖の余り失禁をしているが、男は気に止めるでも無く、淡々と階段を上がって行く。ビルの隙間から見える空には、街灯でボヤケた星が散らばっている。この星空の下、平和な時間を過ごしている人達が居る中、少年はこれから何が起こるのか脳裏に浮かんでは消えて行く想像に気を失いそうになる。頭にこびり付いている断片的な新聞記事と、今、まさに自分が置かれている状況が頭の中を交錯しては消え去って行く。実態の無い恐怖だけが少年の身体を襲い、心をズタズタに引き裂く。