愚者

「ああ」
「その枠組みが有って、次に有るのは家庭と云う名の枠組みと云うか、法律と云う程でも無いけど、家庭の中にはその家庭成りのルールは存在するやろ？」
「確かに、家庭毎に細やかな違いは有るけどね」
「そうや。家訓と云う言葉が有る様に、家族の数だけ、その家庭にはルールが存在するんや」
「なるほどね」
「それで、次に学校や会社と云った枠組みで、又、その場所毎にルールが存在する」
「確かに場所事に決められたルールは有るね」
「それでや、問題としてはここから先に成るんやけれど、このルールと云うのがクセモノでな、縦社会と云うか、強者が居て弱者が存在すると云うか、絶対的な命令系統が有って、一番権力の有る物が作るルールが、その枠組みの中では猛烈な力を発揮するんや」
「権力、か……」
「例えるならば、家族と云う枠組みやと、一般的には一番稼ぎが有る人間やったり、会社組織やったら経営者って事になる」
「確かにそうかも知れないね」
「でや、社会と云うのは、全体的な枠組みと固体的な枠組みが混ざり合って社会が回ってる訳や」
「まあ、そうだと思うよ」
「ここで浮き彫りにされるのは、家族と云う枠組みで通じる常識と、一般的な社会と云う枠組みで機能する常識に照らし合わせたとしたら、万人がそのルールに順応出来るかと云うと、決してそう云う訳では無い。中には、枠組みに順応出来ん奴も出て来る可能性は十二分に有る訳や」
　関はそこ迄喋るとグラスを一息で空けてカウンターに置き目線を投げ掛けて来る。重過ぎる内容だが、他人事だと云うには近過ぎる内容だ。人間が、人間として生きて行く上ではルールと云う枠組みの海を泳ぎ切らなければ、間違い無く反社会人としてのレッテルを張られてしまう。私は関のグラスに新たな酒を注ぎカウンターに出す。琥珀色の液体がグラスの中で揺れて、氷がカランと乾いた音を響かせる。