私が言ったその瞬間、
階段を下りてきていた足音が、ピタリと止んだ。
もう見つかることを覚悟していた私は
ギュッと目を瞑って身を縮める。
あぁ――…私、一体どうなるんだろう?
こんな胡散臭い悪魔の言うことなんて信じられない。
客寄せにする…なんて言っていたから
今ここで神様に捧げられてもおかしくは無いんだ。
(死にたくない――…っ)
しかし、私の願いが神に通じたのか
足音は玄関ホールで立ち止まったまま
こちらを探しに来ようとはしなかった。
「凜、いないねー。」
「ったく…帰ってきたら文句言ってやろうぜ。」
そんな会話が聞こえて、また階段を上っていく足音がした。
……何で?
閉じていた目をゆっくりと開けると、
やっぱり目の前にあるのはあの悪魔の綺麗な顔だけで。
クク…と笑いを必死で堪える彼を
私はポカンと見つめた。
「あ…れ、れ?」
「ククッ…やはり、面白いなお前。」
「バ…バレるかと思ったのに……。」
「俺たちの気配を消しただけだ。運良く気づかれなかった…それだけ。」
急に安心感が込み上げて、体の力が抜ける。
何度も呼吸を繰り返すうちに段々思考が落ち着いてきて
……改めて、考えた。
「……私、ここで働くの…?」
「あァ…お前が言ったのだろうが。」
「やっぱ無理だよ!」
