「――おい。」
「ん?」
貞子のせいで濡れた床を拭きつつ
頭上から降ってきた凜の声に応える。
…何でそんなに不機嫌なの?
「何で、あんなこと―…」
「あんなことって?」
雑巾を絞る手を止めて、凜の方を向く。
彼は眉間に皺を寄せ、腕を組んで
私を見下ろしていた。
「どうしてあの女に気を許した。」
一瞬、どういう意味か分からなかったが
凜の言いたいことは伝わった。
あれだけ心配してくれていたのに
わざわざ凜を遠ざけるような真似をしたんだ。
怒るのも頷けるかも。
「ご、ごめんって…」
「怖い怖いと言っていたくせに…」
「だって貞子さん悪い妖怪じゃなかったでしょ?」
元は人間だし。
と返せば、突然凜の形相が変わり
雑巾をたたむ私の手を掴んだ。
「…そういう問題ではない…!」
