それは、私が何かを与えるばかりだったあの人が唯一私にくれた、なんだかよくわからない、鍵の飾りが鎖に通った首飾りだった。

今までそれを見るのが嫌で、でも目に付く場所に置いておかないと不安で・・・でも確かに机にしっかりと落ちないように置いてあったはずなのに、どうして。

その首飾りを目にしたとたん、心の日蔭の部分から冷気が流れ込んで、一気に冷えて行くのがわかった。

「・・・駄目なの?私、あなたの、ために、生きなくてはいけないの?まだ、貴方は、足りない?」

もちろん、私が話しかけていたのはただの首飾で、返事など帰ってくるはずもないけれど、何故か、「お前を、お前だけを解放してなどやらない」そう言われているようだった。

恐る恐るその首飾りを拾い上げると、「つ・・・!」指先に、鋭い痛みが走った。

それがしゃれているのかどうかはわからないけれど、その鍵の造形はとても荒くてとげがあって、それが、私の薄い皮を突き破って、鮮血をあふれさせていた。

・・・これは、私が、あの人を忘れて生きようとした、罰、なのだろうか。

指先の血を拭っても拭っても、かなり深く刺さったのか、血は簡単には止まってはくれなかった。

その血を見て、恐怖した―――私は、新しい道を行くことを、許されないのだろうか、一生、あの人の影におびえて生きていくのだろうか、と。

「・・・もう、いや・・・。」

もう忘れたい、何もかも忘れて、紅藤様に抱かれていたかったのに。

もう傷つきたくなかった私は、私を守ることにした。



・・・夢、そう思おうか。

紅藤様は、このおぼろげな街が私に見せた、甘いけれど猛毒のような、夢と。