「あなた様の、お名前は、教えて下さらないのですか・・・?」



情事が終わった後。

けだるい体をシーツにくるまることで隠して、男に寄り添っているとき。

完全に、このお人に溺れた私は、男の言うとおり、男に全て任せるように存在していた。

男に抱かれているときは、あの人のことなど思い出す余裕もなくて、むしろ、目の前のこのお人のことだけを考えていられるのがとても心地よくて。

あの人を忘れるということが、こんなにも楽なことだとは知らなかった。

「お前の本当の名前を教えてくれるのなら、教えてやろう。・・・どうせ麗蝶など、源氏名だろう?」

髪を梳いてくれる手が心地いい。

落ち着いてみると、不思議な・・・深い碧色をした瞳をしていた。

何も考えられなくなって、心の中にあることを洗いざらい吐いてしまいそうで怖くて、その瞳に見つめられることが怖く感じる。

「・・・朱蘭。」

「麗蝶」が本当の名だと嘘をついたってよかったのに、本当の名で呼んでほしいと思って、あっさりと口を割ってしまう。

「そうか、朱蘭というのか。そうか・・・」

男はなぜか感慨深げにそう言うと、横になっていた私を抱き起こし、自分の足の上に座らせた。

「俺の名は、紅藤という。朱蘭、お前は、明日から・・・いや、今日から、か。俺以外の客の相手はしないでいい。お前の面倒は、俺が見てやろう。」

軽い触れるだけのキスをすると、自信ありげに、

「約束通り、お前をこの街で一番の女にしてやろう。」

もう一度、私の体を褥に押し倒した。