それがむずがゆくて、紅藤様に「私にも何かさせて」そう言ったら、刺繍糸だの本だの布だのたくさん運び込まれて、「好きか」と問われたので「ええとても」と答えたら、「よし、やることができたな」とにやりと笑われた。

紅藤様は私を都合のいい方向にはめたのだ。あのときの悔しさときたら・・・一生忘れないのではないかな、と思う。

なおも不服を申し立てる私に、紅藤様は言った。

「お前は好きなことをしていればいい。お前がいるから頑張れるのだから。お前は俺に守られて笑っていてくれ。」

そんな風に言われてしまってはもうどうすることも、何を言うことも出来ない・・・私は半ば開きなおったような気持で好きなことを存分することにした。

その代わり、紅藤様も言った通り、疲れて帰ってきた紅藤様を、砂糖菓子のように甘やかすようになった。

態度を甘くしたのはもちろん、夜の相手も、私の体がついて行く限りは断らなかった―――紅藤様があまりに体力がありすぎて、半ばついていけてなかったけれど。

全く、私よりも十は年が上だと言っていたのに、紅藤様はどうしてああも元気なのだろう・・・いいことのはずなのに、素直に喜べない。

綺麗な洋服や美しい装飾品、飾り立てる質のいい化粧品が、毎日のように与えられた。

もちろん店にいる時も美しい衣裳や装飾品を身にまとうことはできたけれど、それとこれとは、全く意味が違うのだな、と、紅藤様が与えてくれた衣服に袖を通しているときに気付いた。

召使いは、ずっと私に優しかった。

家族の記憶がないに等しい私にしてみれば、それは憧れた家族そのもののような気さえした。

紅藤様も変わらず優しかった。

お互い愛情をかけあうことができた・・・召使いには一生新婚気分みたいですね、なんてからかわれるほど。

一つの椀の中に、ありとあらゆる幸福というものを全て入れたものに、ゆったりとたゆたっているかのようだった。

だから私は、そんな日々が二人を死が分かつまで、続いていくのだと、思っていた。