徐々にかりそめの絶望の淵から戻ってきた私を面白そうに見ながらも茶英は着々と部屋の準備を整えていく。

茶英が私に水を一杯持ってきてくれて、それを一気に飲み干した後、やっと正気に戻った。

「茶英!!何て事を言うの貴方は!!」

なんだ、そういうことか、紅藤様なら、やりかねない。

何しろ、私をこの街でも一番の女にするという約束をしてしまったのだから、私がいつまでもこんなちっぽけな店にいたら、それは叶えられないだろう。

それにしても、かりそめの絶望だったとしても、何て怖い―――。

あまりにそれが怖かったために、茶英にぶつける怒りも半端なものでは済まされなかった。

一番近くにあった枕をはじめとして、手当たりしだいのものを茶英に投げつけた。

「いいじゃないですか。最後に意地悪くらいしても。」

なぜ。何故私が茶英になんか意地悪されなければならないのだ、私よりも4つも年下の癖して、どうしてこうも態度が大きいのだ。

悔しいくらいに茶英は私が次から次へと投げるものを、次から次へと華麗に受け止めてはもとあった場所に戻していく。

「貴方はなにものにも侵されないような、けれど世の中からは気して切り離されず、むしろ周囲の雑魚はもちろん、大きなものを惹きつけてやまないような不思議な空気を発していました。」

「それが何なの!」

今まで投げたものは全て柔らかいものだったけれど、それがどんどん硬さを持つ者に移行していく。

「この、誰にでも足を開く女ばかりが集まるこの場所においてさえ、そんな女に囲まれて目が腐りきっている俺でさえ、周囲にどんな堕落したものがあっても、貴方だけは神聖に見えました。」

「それは私をけなしているの!」

「私の言っていることを理解くらいしてほしいものですね。」

最後にはいましがたまで水が入っていた椀をとり投げると、『ぱし』と小気味いい音を立てて、茶英が受け止めた。

「貴方のことを気に入っていた、と・・・慕っていたと、言っているんですよ」

「・・・は?」

最後の一言に、行動が止まってしまう。

だって、ここに入ってから、ずっと茶英は意地悪で、そんなそぶり欠片も見せなかったというのに、何を突然言い出すのだろう。