「・・・何が、駄目なんだ?」


自分でも気がつかないうちに駄目だとつぶやいていたらしく、紅藤様が口づけて、私の顔を覗き込んでくる。


「・・・私は、・・・怖いのです。あなたに、何もかも、捧げてしまいそう・・・。溺れて行くよう・・・。」

「ほう。俺は、大歓迎だが?」


楽しそうに誇らしそうに言う紅藤様に、あこがれの念を抱きながら、それでもなお消えない恐怖を訴えた。


「怖い・・・。」

「では、溺れた先で、何もかもを受け止めてあげよう」

「あ・・・っ」


この人は、こんなにも、私を受け止めようとしてくれているのに、私が、こんなにふらついた気持ちでいいのか・・・。

この人は、どうしこんなに優しいのだろう―――『あの人』だって、こんなに優しくは・・・いや、ちっとも優しくなかったのかもしれない、溺れた私があの人を優しく見せていただけで。


「ほら、昨日のように、俺のことだけを考えればいい。余計なことは考えなくていいんだ」

「・・・ああぁぁ」


紅藤様の口からこぼれてくるのは、甘い甘い甘美な毒のよう。

その毒を、紅藤様ごと飲みほしたいと思うのは、もうすでに、私の心があの人からはなれていっているということなのだろうか。


「そう。そうだ、それでいい。」

「ん・・・ふ・・・!」


抱かれながら、もう、この人に全てを任せてしまおう・・・そう思うことができた。