復習

「今日は何だい？」
「出来てからのお楽しみですよ」
　美奈子は、子供を嗜める様な口調で高濱に話し掛け、程好く焼けたメザシと胡瓜の浅漬けを差し出す。
「美味そうだね」
高濱は猪口で一杯飲み乍、酒の肴を突きTVを点けてニュースを眺めていると、美奈子が声を掛けて来る。
「そう云えば、今日のニュースで怖い事を云ってたわ」
「怖い？」
「ええ。もう直ぐニュースの時間でしょ。詳しくはニュースで見て貰ったら良いんですけど、今日の夕方、女性の惨殺死体が発見されたそうよ」
「何だ、そんな事か」
　高濱は、胡瓜の浅漬けを食べ乍生返事をする。別段、怖いと思う程の事では無い。寧ろ、日常茶飯事とも云える殺人事件の一つに過ぎない。
「何が怖いんだよ。それ位のニュースなら、無い日の方が珍しいじゃないか」
　高濱がパリポリと浅漬けを噛み砕き乍美奈子に話し掛けると、美奈子はコンロの火を調整し話し出す。
「私も、始めはそう思ってたんですけれど」
　そこ迄喋ると、TVで件の内容の報道を始め、美奈子は「ニュースを見て下さい」と云い残し料理を続ける。
　TV画面。高濱は何時もの見慣れたニュース番組を眺めていると、何処かで見た覚えが有る場所が映し出され、ゴクリと息を飲む。
「美奈子、この場所って……」
「ええ。直ぐそこのマンションよ」
　他人事だと思っていた殺人事件が、自分の家の近所で起きた事に高濱は軽いショックを覚え、身を乗り出す様にニュースに食い入る。他人事では済まされない程に、高濱の家は事件が起きた場所から近い。