高濱は大きく息を吐き出し、頭にシャンプーをふりかけガシガシと洗うと、数本の髪の毛が抜け落ち、複雑な思いを抱き乍、シャワーで頭を洗い流した。

「良い湯だったよ」
 パジャマ姿に成った高濱は、ダイニングキッチンに置かれている椅子に腰掛け一息付くと、さっと、美奈子は燗された徳利と猪口をテーブルに起き、うんざりとした口調で話し出す。
「貴方、親父臭い真似は止めて下さいよ」
「何処が親父だって云うんだよ。別に中年太りに成って要る訳でもないのに」
「体型の事を云ってる訳じゃ有りません」
 高濱は椅子から立ち上がり体型を誇示する様に、ボディービルダーの真似事をすると、美奈子は呆れた様な口調で非難する。
「そこ等中で服を脱いだり、風呂の中で大きく溜息を付いたり、本当に中年親父ですよ」
「俺が中年なら、美奈子も十二分にオバサンだよ。今年で三十三だしな」
 美奈子の非難の声に、高濱は何時もの事だと云う風に切り返すと、呆れ顔の美奈子はショートヘヤ―を左右に振り「もう!」と短く抗議の声を上げる。男以上に、女の方が年齢の話には敏感だ。特に、美奈子の様な年齢が一番神経を尖らせている。高濱は、そう云った女の心の部分を巧みに突き刺し、反撃をすると同時にバンザイの格好に成る。
「これでお互い様だな」
 高濱が終戦の声を上げると、美奈子も不承不承頷き、食事の準備をする為に、コンロに火を点し鍋を温める。