『秀明と秀隆。お前と俺は、全くの別人なんだよ。お前は平和を求め、俺は破滅を求める。しかしなぁ、誰でも殺しの衝動を抑える事はできね。現に、殺しをする時の身体と脳味噌の支配率は7対3で俺が握っているんだ。完全な支配が出来ないおかげで、喋る時の口調は馬鹿丁寧だがな』
―馬鹿な、事を云うな……
『否定出来てねえじゃねえか。俺は、切欠を与えてるだけだ。それを生かすも殺すも秀明、お前次第なんだよ』
―違う……
『否定するなよ。お前は殺す快楽を求めているんだ』
―違う!
 ベッドの上。石川は、頭の中で響き渡るもう一人の人格と対立するが、全ての言葉を否定出来ない自分に苛立ちを覚える。殺人。本来は他人事だと思われる非現実的な行為。だが、殺人事態は、別段生活から掛け離れている訳では無い。殺したい。ぶん殴りたい。刺し殺したい。人間が社会生活を送る限りは、他者との軋轢は必然的に起こり得る。只、そう思う事と実行する事は別物だと云う風に捉えがちだが、それは、そう云った切欠が無いからに過ぎない。若し、刺し殺したいと思う人間の横にナイフが有ったなら。ぶん殴りたいと思う憎い相手の眼の前に鈍器が転がっていたら……そう、全ては些細な切欠が、暴走した心を突き動かすに過ぎない。殺人は、非日常なのでは無い。誰しもが、加害者にも被害者にも成り得ると云う事だ。
「俺は異常じゃ無い」
 房の中。石川の声は、虚しくコンクリートの中に響き渡る。快楽の為に殺した訳ではない。では何故?石川は、幾度と無く交錯する思いを旨に、自首をしなかった自分の弱さを呪う様にベッドの中で身悶えた。