「お前なんか。お前なんか。お前なんか。お前なんか。お前なんか。お前なんか。お前なんか」
『コロセ。コロセ。コロセ。コロセ。コロセ。コロセ。コロセ。コロセ。コロセ。コロセ。コロセ。コロセ。コロセ。コロセ。コロセ』
 滅多刺し。母親の全身を突き刺す少年は、鬼気迫る形相で母親の身体を突き刺しては、呪文の様に言葉を紡ぎ出していると、背後からその手を止められた。
「やめろ!」
 強烈な力で、包丁を握り締める手を止められた少年は振り返ると、警察官が立っていた。
「秀明」
『秀隆』
「『こいつも・ヤッチャエバ・良いんだよ』」
 少年の口から、同時に声質の違う言葉が漏れ出し、警察官は、本能的に少年の手首の関節を極めて包丁を叩き落し手錠を掛ける。
「アンタ、早く連れてって頂戴!」
 玄関の外。部屋から聞こえた異常な騒ぎで通報をした隣家の主婦は、恐ろしい物を見る眼で警察官に文句を垂れると、イソイソと自分の家へと帰って云った。

第五章逡巡
 事件発生から三日。石川が警察に捕獲されるのに要した期間だ。警察機構の緊配(緊急配備)が結果的に良かったのだろう。だが、この逮捕劇は、後の大騒動へと発展して行く。東京都内で起きていた、狂気とも云う程に、必要以上に惨殺された殺人事件と石川が繋がっていた。つまり、殺された人間の遺留品や髪の毛等を戦利品として収集していた。この時点で、十分過ぎる程驚愕に値するが、テーブルに置かれているパソコンのデータに入っていたファイルを開いた気の弱い警察官は、その場で吐き出したと云う。