「何を、云ってるんですか?」
「如何してお前が持ってるんだ!」
 怒声。高濱は憤怒の表情を浮かべ石川の胸倉を掴み上げる。
「この飾りだ!」
 緋色の石が、シルバーの小振りな台座に光り輝いている。高濱は、指先に持った石を石川に突き付ける。
「何ですかそれ?」
「お前の、その作業着から落ちたんだよ……」
 静寂。部屋の中は不気味な程に静まり返り、高濱の全身からヒリツク様な殺気が立ち上る。
「今日行ったパチンコ屋が込み合っていたからね。誰かの飾りが紛れ込んだんじゃ無いのかな?」
 惚けた様な、気楽な声で話し出す石川を、高濱は殺意の浮かんだ眼で睨み付ける。
「ふざけるなよ……」
 空気が張り詰める。高濱は爆発しそうな怒りを、強靭な意思で押さえ込もうと、石川の胸倉を掴んだ手が小刻みに震える。
「この飾りはな、俺と美奈子が手製で作った結婚指輪の石だ……」
高濱の口から、感情の消え去った声が漏れ、再び静寂が辺りを支配する。高濱は、石川の胸倉を掴んだ侭、頭の中で交錯する情報を一本に纏め、炙り出された答えを信じられないと云う風に頭を左右に振り否定する。
「惚けても、無駄って事かな」
「何故……お前なんだよ……」
 問い詰めたい。問い詰めたい。問い詰めたい。高濱の頭の中には、問い詰めたいと云う言葉だけが溢れ出し、石川の胸倉を掴んでいる手を離し、殴り掛かる。右ストレート。だが、石川は顔面に飛んで来るパンチを直前で交し、体当たりをする。部屋の中。肉がぶつかり吹っ飛ぶ音が響き二人とも倒れるが、石川は直ぐに立ち上がり、高濱には眼もくれずに玄関から飛び出し、暗闇が支配する街に逃げ去った。