―石川、部屋に居るかな。 
高濱は、二階建てのアパートを見上げて一人呟く。高濱と石川の家は、歩いて十分程度の所に有る。だが、石川の家に入ったのは今から十年近く前に一度入った切り、石川の部屋に上がった事は無い。高濱は錆びが浮いた階段を上り石川の部屋の前迄行きインターフォンを押すが、部屋の中から石川が出て来る気配は無い。
「居ないのか?」
 高濱は諦め切れずにドアノブを捻ると、乾いた音を発てドアは開いた。
「戸締り、忘れているのか?」
 高濱は如何したら良いのか分からず、呆然と立ち竦み、意を決して部屋に入る事にした。
「謝ればすむか……」
 酒の力の為か、高濱は普段では取らないで有ろう行動を取る。
 外部からの蛍光灯が部屋を微かに照らす。整理された部屋。高濱の第一印象は以前と変わらぬ整理された部屋に感心した声を上げ、電灯のボタンを探し、スイッチを押して靴を脱ぐ。
「えっ?」
 六畳程の部屋。壁脇にベッドが置かれ、部屋の中央に小さいテーブルが鎮座し、そのテーブルの上にはノートパソコンが置かれている。だが、高濱の一番の関心を引いたのは壁だった。壁一面に張り出されている新聞紙。その紙面に書かれているのは、眼を見張る物ばかりだ。
 千葉県N市一家四人殺害・大阪市H区アパート放火殺人・東京都K区公園内爆発事件・名古屋市N区小学生変死体。
 壁に張り出された新聞紙は、どれを見ても殺人や猟奇的な内容ばかりが書かれている。
「タカさん……」
 部屋の入り口。高濱は背後から呼ばれた声に振り向く。
「……石川」
 高濱は如何対応したら良いのか分からずに、其処から先の言葉が続かない。直立した二人の間に緊迫した空気が流れる。
「如何して―」
 同時に、互いに同じ疑問が口を突いて出る。勝手に部屋に侵入した高濱は、人の部屋に無断で入った後ろめたさに、石川は自身の部屋に居る高濱に驚きの表情を互いに浮かべている。
「俺は、近くを通ったから、お前さんの部屋に寄ったんだ」
 石川自身も、高濱の身に起きた事は知っている。高濱はその点を踏まえた上で、簡潔に来訪の趣旨を伝えると、石川は困惑した表情を浮かべる。