第四章 激情
 TVの画面の中。高濱は自分が映し出される画面を呆然と眺めている。事件から二週間。高濱は葬儀が終わると同時に、会社に休暇願いを出し、その期限が迫っている事を思い出す。フローリングのソファーの上。無精髭を生やした侭で酒を煽る。連日連夜の取材攻勢と警察の事情聴取の嵐。高濱はその波状攻撃に心身共に疲れ果て、自身の許容量以上の酒を飲んでは吐き続ける毎日を繰り返し、夜毎襲って来る焦燥感と悲しみから逃げ続ける。前後不覚に陥る直前の度に、頭を過ぎる惨殺された美奈子と楓。不毛過ぎる毎日だと頭では理解しているが、悲しみを薄める為に飲む酒の量は日増しに増えて行く。日々報道される意味の伴わない殺人。高濱は、そのニュースを他人事の様に見ていた自分に嫌気がさす。家族を失った悲しみとやり場の無い怒り。恐らく、残された遺族が思う事は只の一つだろう。それは、犯人を自分の手で殺したい、その一点に収束される。高濱は、顔も分からぬ犯人を頭に描くと同時に、酒の入ったグラスを床に叩き付ける。部屋中に散らばるグラスの破片。この一週間、高濱は怒りのスパイラルに陥り、出口の見えない虚無感に苛まされては、その怒りの発散としてグラスを叩き付ける。
「如何したら良いんだよ!」
 深夜の部屋の中、高濱は一人喚き散らし倒れそうな足取りで玄関を開けて表に出る。
「あ……あら、こんばんは」
 高濱が廊下に出ると、隣人の主婦が興味深そうに高濱の家の前に立っている。
「どうも……」
 明らかな狼狽を浮かべている主婦に、高濱はぶっきらぼうに頭を下げてエレヴェーターに乗り込む。
「糞!」
 高濱は思い切りエレヴェーターを殴り付ける。興味本位で覗き見の様な行為をする隣人やニュースキャスター。高濱は世間の晒し者に成っている現状に吐き気を覚え乍、久し振りに外に出る。昼間に外出すると、何処で誰に見られるか分かった物では無い。その点では、深夜なら顔の判別も付き難い。高濱は、悪酔いした吐き出しそうな気分の侭で無目的に歩き始める。
 朧月が上空にポッカリと浮かんでいる。高濱はふらふらと歩いていると、見覚えの有るアパートが眼に入り、立ち止る。