エレヴェーターの壁。高濱は寄り添う様に身体を凭れさせ、自宅の有る七階のボタンを押して扉を閉めると、エレヴェーターは重いモーター音を響かせて上昇する。
―もう、二時か。
携帯電話の時計は深夜の二時時を過ぎた辺りを指し示している。居酒屋を出たのか十一時を越えた辺りだった。その時間から逆算すると、自宅に付く迄、徒歩で三時間近く掛かっている。元々、飲み屋から自宅迄は自転車で二十分程掛かるが、鈍痛を抱えた侭で歩いた為に、恐ろしく時間が掛かっている。今は、身体の鈍痛はかなり薄らいでいる。ズルズルと、壁に凭れさせた身体が床に滑り落ちそうに成るのを必死に堪え、目的地の階に着いたエレヴェーターは扉を開き、高濱はふら付く足取りで廊下に降り立つ。非常灯。不規則に点滅する光が高濱の眼を刺激する中、自宅の扉の前に歩いて行き、ズボンのポケットに手を突っ込みキーケースを取り出し鍵穴に差し込み手首を捻る。ガチャリと、乾いた音が廊下に響き、静かに扉を開ける。
真っ暗な部屋の中。何時もなら、遅くなると一本連絡をしていれば美奈子は起きて待っている。だが、今、高濱の眼の前は暗闇が支配している。確かに、深夜の二時と云う時間を考えれば、寝ていても可笑しくは無い。だが、それは一般的な意見でしかない。ハッキリしている事は、高濱の記憶の中では、この時間に帰る事は、別段珍しい事では無い。残業が長引けば深夜の二時を回る事も比較的に有るからだ。
―この臭いは何だ?
微かに鼻を擽る鉄臭い匂い。高濱は全身から冷や汗が浮かび、壁の脇に有る蛍光灯のスイッチを押し視界を確保する。
玄関。風呂場。台所。高濱が立っている位置からは、別段異常を感じる事は無い。正面。閉じられた磨りガラスの奥。心臓が早鐘の様に激しく鼓動し、血液を身体に流し込む。本能が身体を突き動かす。高濱は靴を履いた侭で扉を開けて部屋に飛び込む。
―もう、二時か。
携帯電話の時計は深夜の二時時を過ぎた辺りを指し示している。居酒屋を出たのか十一時を越えた辺りだった。その時間から逆算すると、自宅に付く迄、徒歩で三時間近く掛かっている。元々、飲み屋から自宅迄は自転車で二十分程掛かるが、鈍痛を抱えた侭で歩いた為に、恐ろしく時間が掛かっている。今は、身体の鈍痛はかなり薄らいでいる。ズルズルと、壁に凭れさせた身体が床に滑り落ちそうに成るのを必死に堪え、目的地の階に着いたエレヴェーターは扉を開き、高濱はふら付く足取りで廊下に降り立つ。非常灯。不規則に点滅する光が高濱の眼を刺激する中、自宅の扉の前に歩いて行き、ズボンのポケットに手を突っ込みキーケースを取り出し鍵穴に差し込み手首を捻る。ガチャリと、乾いた音が廊下に響き、静かに扉を開ける。
真っ暗な部屋の中。何時もなら、遅くなると一本連絡をしていれば美奈子は起きて待っている。だが、今、高濱の眼の前は暗闇が支配している。確かに、深夜の二時と云う時間を考えれば、寝ていても可笑しくは無い。だが、それは一般的な意見でしかない。ハッキリしている事は、高濱の記憶の中では、この時間に帰る事は、別段珍しい事では無い。残業が長引けば深夜の二時を回る事も比較的に有るからだ。
―この臭いは何だ?
微かに鼻を擽る鉄臭い匂い。高濱は全身から冷や汗が浮かび、壁の脇に有る蛍光灯のスイッチを押し視界を確保する。
玄関。風呂場。台所。高濱が立っている位置からは、別段異常を感じる事は無い。正面。閉じられた磨りガラスの奥。心臓が早鐘の様に激しく鼓動し、血液を身体に流し込む。本能が身体を突き動かす。高濱は靴を履いた侭で扉を開けて部屋に飛び込む。


