「殆ど本能に近い反応や。別段意識が戻った訳では無い」
生命の神秘。私は言葉に出来ぬ複雑な思いを旨に、ペントソールと塩化カリウムを手際良く流して行く。
「坂部君、良く見て置くんや。田中夫妻がワシ等に残して行く物を、ワシ等は胸に刻む義務があるんや」
「わ、分かってます」
坂部が涙声を上げる。辛い現実が部屋に満ちる中、私は回りの感情の波に当てられる事無く、淡々と田中夫妻の変化を見守る。
「光さん。本当に有難う。梅子……あの世でも、一緒に暮らそうな」
田中が最後の力を振り絞って紡いだ言葉に、妻である梅子が微かに反応を示して話し出す。
「貴方……何時迄も、一緒……よ……」
夫婦として交わした最期の言葉。梅子は最後の言葉を残して意識が先ず途切れた。浅い呼吸。後数分で呼吸も止まり静かに息を引き取るだろう。
「光さん」
「はい」
「本当に……感謝している」
「そんな事は……」
「最後に……ワシから、お願いをして良いかね?」
「云って下さい!」
坂部が田中の手を握り締める。
「これ以上、ワシ等の様な被害者を出さん様に……国に……訴えてくれんか?」
坂部は涙で声を出す事が出来ず、田中の手を握り締めた侭で何度も頷く事で意思を示す。
「ワシからの、最後の我侭じゃ……」
田中の言葉がうわ言に成っている。坂部は何度も涙声で「分かりました」と答え、田中は「有難う」と云うと、最後に身体を震わせて瞳を閉じ、やがて夫妻の顔は赤くなり、徐々に青ざめ、赤い斑点が顔に浮かび初め、夫妻は静かに生きを引き取った。
「田中さん!田中さん!!」
坂部が慟哭に近い呻き声を上げて泣き伏せる。
「あまり、声を出したらあかん」
関が優しく坂部の背後に回り抱き締める。
「最後の刻を自分で決める事が出来る。これは、幸せな事やと思って上げるんや」
「でも……」
「残されたワシ等に出来る事は、田中さんの云った言葉を形にする事とちゃうか?」
「僕は……」
「強くない事は無い。お前さんは強い。強いからこそ、悲しい選択を選ぶ事が出来たんや。口先だけの奴には、お前さんの様に辛い選択は絶対に出来ん」
坂部は関の言葉を最後に、静かに布団に突っ伏し涙を流した。
「引き上げる準備、始めようか」
関が私に声を掛けて来る。穏やかな死に顔。
生命の神秘。私は言葉に出来ぬ複雑な思いを旨に、ペントソールと塩化カリウムを手際良く流して行く。
「坂部君、良く見て置くんや。田中夫妻がワシ等に残して行く物を、ワシ等は胸に刻む義務があるんや」
「わ、分かってます」
坂部が涙声を上げる。辛い現実が部屋に満ちる中、私は回りの感情の波に当てられる事無く、淡々と田中夫妻の変化を見守る。
「光さん。本当に有難う。梅子……あの世でも、一緒に暮らそうな」
田中が最後の力を振り絞って紡いだ言葉に、妻である梅子が微かに反応を示して話し出す。
「貴方……何時迄も、一緒……よ……」
夫婦として交わした最期の言葉。梅子は最後の言葉を残して意識が先ず途切れた。浅い呼吸。後数分で呼吸も止まり静かに息を引き取るだろう。
「光さん」
「はい」
「本当に……感謝している」
「そんな事は……」
「最後に……ワシから、お願いをして良いかね?」
「云って下さい!」
坂部が田中の手を握り締める。
「これ以上、ワシ等の様な被害者を出さん様に……国に……訴えてくれんか?」
坂部は涙で声を出す事が出来ず、田中の手を握り締めた侭で何度も頷く事で意思を示す。
「ワシからの、最後の我侭じゃ……」
田中の言葉がうわ言に成っている。坂部は何度も涙声で「分かりました」と答え、田中は「有難う」と云うと、最後に身体を震わせて瞳を閉じ、やがて夫妻の顔は赤くなり、徐々に青ざめ、赤い斑点が顔に浮かび初め、夫妻は静かに生きを引き取った。
「田中さん!田中さん!!」
坂部が慟哭に近い呻き声を上げて泣き伏せる。
「あまり、声を出したらあかん」
関が優しく坂部の背後に回り抱き締める。
「最後の刻を自分で決める事が出来る。これは、幸せな事やと思って上げるんや」
「でも……」
「残されたワシ等に出来る事は、田中さんの云った言葉を形にする事とちゃうか?」
「僕は……」
「強くない事は無い。お前さんは強い。強いからこそ、悲しい選択を選ぶ事が出来たんや。口先だけの奴には、お前さんの様に辛い選択は絶対に出来ん」
坂部は関の言葉を最後に、静かに布団に突っ伏し涙を流した。
「引き上げる準備、始めようか」
関が私に声を掛けて来る。穏やかな死に顔。

