リアル

「何れは、分かる日が来るよ。家族を持ち、社会生活を送って最後は一人に成る。そんな頃には分かると思う」
 田中は卓袱台の茶を啜る。何処にでもある日常。だが、後数時間も経てば、この日常が全て無く成ってしまう。自分の意志で閉じる最後の瞬間。坂部には、まだ全てを受け入れるだけの人生経験は無く、田中の言葉の半分も理解出来無い部分はあるが、何となく、感覚が理解している。
「僕、そろそろ仕事に戻ります」
「そうじゃな」
「また、連絡します」
「頼むよ」
 坂部は立ち上がり服を羽織る。次にこの部屋に来る時は、全てが終わる時だ。索漠とした気持が坂部を包み込む。非力な自分がもの凄く情けなくなる。坂部はそう云った複雑な思いを旨に田中夫妻に「それじゃあ」と短く挨拶をして外に出る。時計は昼の十三時を回っている。