背後から聞こえて来る声に、私は軽く手を上げて答えてドアを開けて外に出る。外気が温まった身体を突き刺す。痛みだけが、生きている実感を私に与えてくれる。喧騒の中。私は煙草を取り出して一服点けて、微かな酔いに身体を預けて自宅へと向けて歩き出した。
*
田中夫妻の自宅。坂部は横たわる梅子の傍らに座り、田中と静かに見詰め合う。昨夜の一連の流れを説明する。動き出した現実。坂部は静かに田中の次の言葉を待つ。
「本当に、光さんが準備をしてくれたんじゃな」
「はい」
「有難う。本当に有難う……」
「僕に出来る事は此処迄です。この先は―」
田中が静かに涙を流し、坂部の言葉を止める。田中の眼から溢れる涙が、全てを物語っている。皺の一つ一つが、涙で優しい光を放つ。
「ワシは、本当に幸せなのかも知れんな。最後に、満足の出来る往生が出来るんじゃ」
「本当を云うと、僕は凄く寂しいんです」
「光さん……」
「少なからず、田中さんとは付き合いがあります。知っている人が死んで行くのは、やっぱり寂しいですよ」
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田中夫妻の自宅。坂部は横たわる梅子の傍らに座り、田中と静かに見詰め合う。昨夜の一連の流れを説明する。動き出した現実。坂部は静かに田中の次の言葉を待つ。
「本当に、光さんが準備をしてくれたんじゃな」
「はい」
「有難う。本当に有難う……」
「僕に出来る事は此処迄です。この先は―」
田中が静かに涙を流し、坂部の言葉を止める。田中の眼から溢れる涙が、全てを物語っている。皺の一つ一つが、涙で優しい光を放つ。
「ワシは、本当に幸せなのかも知れんな。最後に、満足の出来る往生が出来るんじゃ」
「本当を云うと、僕は凄く寂しいんです」
「光さん……」
「少なからず、田中さんとは付き合いがあります。知っている人が死んで行くのは、やっぱり寂しいですよ」

