リアル

「通報で来るのなら、もう少し遅い方が良いと思うがね」
 ゆらりと、街灯に照らされた影が揺れる。私はコートを羽織り直して影に視線を向ける。
「余計な口出しはするもんじゃ無いな」
 富田が薄い笑みを浮かべて歩いて来る。
「喧嘩による別件逮捕で末端のチンピラを引っ張るなんて、質の悪い美人局も良い所だ」
「ふん。社会秩序を守る為の方法論だ」
 富田は私の皮肉を一蹴し懐に手を差し込む。
「手間賃だ」
 無造作に差し出された封筒。チラリと見える札の束を見る限り予想より多い。
「約束より多いね」
「特別ボーナスも上乗せだ」
「ジュウさんの依頼人は、余程金払いが良い様だ」
「一々癇に触る野郎だな」
「お互い様だがね」
 遠くからパトカーのサイレンが鳴り響く。私は底冷えする身体に鞭打ち大きく伸びをする。激しく動きまくった筈だが、知らぬ内に外気が体温を奪い去ったのだろう、関節がズキリと痛む。
「これ以上無駄話をしていると拙い事に成りそうだ」
 寒風が路地裏を駆け巡る。私は凍える左腕を出して時計を見る。蛍光塗料で鈍い光を放つ時計の針は、十九時を示している。
「それじゃあ」
 私は富田に軽く挨拶をしてその場を後にした。