リアル

「そりゃ、本心からの言葉じゃよ」
「その答え意外、本当に選択肢は無いんですか?」
「こうしている間にも、妻は助かる見込みも無いのに、毎日痛みに苦しんでおる。ワシは、そんな思いをさせるのが辛いんじゃ」
「ですが……」
「ワシに勇気が無いばかりに、妻には辛い毎日を送らせておる。ワシの一方的な我侭の所為でじゃ……」
 田中は日々思い詰めている。坂部は片桐と交わした言葉を噛み締める様に話し出す。
「……仮にですよ」
「なんじゃ?」
「仮に田中さんが自分の手を下さないでその思いを遂げられるとしたら……如何しますか?」
 即答が出来る訳が無い。坂部は心の何処かでそう思い乍ら質問をしたが、田中は悩む事無く話し出す。
「仮にその様な事が可能だとしたら、ワシは、ワシも含めてお願いしたい位じゃよ」
「その意志に、戸惑いや後悔は無いんですか?」
「無い」
 即答に次ぐ即答に、逆に坂部が驚きの表情を浮かべる。
「若しもワシの願いが叶うのなら、ワシのあり金の百五十万を上げても良い位じゃ」
「そこ迄、思い詰めているんですか……」
 坂部は暫く逡巡した末、田中に「分かりました」と短く答え、視線を田中に向ける。
「如何したんじゃ?」
 田中は、坂部の思い詰めた表情に困惑の色を浮かべる。田中自身、自分の云った内容が酷く相手を困らせる類の物で、現実問題として捉えた場合、第三者が介入出来る問題では無い事は十二分に理解している。だが、坂部の口から語られる話の内容は、田中が不可能だと思っていた事を具現化する内容の物だった。