リアル

第四章 決断
 流れの良い三車線の道を、坂部は他の車に合わせて車を走らせるが、頭の中は昨夜の出来事で一杯に成っていた。答えの無い迷宮。関の言葉が頭を過ぎっては消え去って行く。これ以上田中夫婦の問題に首を突っ込むと云う事は、少なからずそれなりの覚悟が必要に成って来る。第三者だから云える言葉と、云えない言葉。坂部は一晩逡巡した末に、田中の答えを聞いて見様と云う結論に行き着く。片桐が云った狂気の一線。その境界線を越える為には、半端な覚悟では無理だと云われた言葉が、坂部の心の中に在る最後の一線を越えさせ様としている。何故その様な選択肢を選ぶのか。一線を引いて付き合えば、この様な悩みに苦しむ事は無い。だが、坂部は小賢しい理屈よりも、田中の真摯な愛情に心を揺り動かされた。少しでも力に成りたい。例え、それが自身の自己満足と云う答えだとしてもだ。
「あれこれ悩んでも仕方が無いか……」
 車の中。坂部は自分に云い聞かせる様に小さく呟き乍らステアリングを切り、通い慣れた小道に入り、田中の自宅に向けて車を走らせる。細い小道。坂部は巧みに車を運転し、何時もの場所に車を止めて田中の自宅迄歩いて行く。
―大丈夫
坂部はもう一度自分に云い聞かせて、玄関の呼び鈴を鳴らす。沈黙。坂部は、吹き荒ぶ寒波から身を守る様にジャンパーを寄り合わせていると、玄関の鍵が開けられる音が聞こえ、田中が寒そうに坂部を招きいれる。
「光さん、この前はすまなかったね」