「言葉がな……頭の中で理解する事が出来ん様に成ってもうたんじゃ。本能的に、自分の身体の異変を感じ取る位で、今ではワシの事を思い出す事も難しい様なんじゃ」
「それは……」
痴呆症。坂部の頭の中にはその言葉が過ぎるが、口にする事が出来ず、田中はそんな坂部の意を汲み取ったかの様に言葉を繋げる。
「痴呆症じゃよ」
坂部は何故と云う疑問を繋げる事が出来無い。理由は余りにもハッキリしているからだ。
「若い人の寝たきりと、ワシらの様な老人の寝たきりとでは、質が違うんじゃよ。ワシらの様に年を取ると、寝ているだけも身体は酷く衰弱するし、脳への刺激も少なくなる。そう成れば、水が高きから低きに流れる様に、自然と悪い方向へと事態は進んでしまう……」
若い者でも病気に成って寝たきりに成れば、当然身体も弱るが、心も激しく衰弱して行く。孤独。不安。絶望。院内から外出する事の難しい入院生活と云うのは、傍が見ている以上に、本人の精神的な負担は大きい。坂部自身も介護の仕事を通じて、寝たきりに成った人間の辛さを眼の辺りにしている。そして、その家族が抱える問題もだ。
「昔の話じゃが、妻と話をした事があるんじゃ」
「話、ですか?」
「どちらかが寝たきりやボケに成ったとしたら、残った方が殺そうとな……」
「こ、殺す!」
「物騒な話じゃと思うじゃろ?じゃがな、金銭的にも決して潤沢では無い上に、ワシは呼吸器の障害を持っておる。光さんも知っている通り、年々、日本は老人には住み難い社会に成るだけじゃ……」
「……」
「それは……」
痴呆症。坂部の頭の中にはその言葉が過ぎるが、口にする事が出来ず、田中はそんな坂部の意を汲み取ったかの様に言葉を繋げる。
「痴呆症じゃよ」
坂部は何故と云う疑問を繋げる事が出来無い。理由は余りにもハッキリしているからだ。
「若い人の寝たきりと、ワシらの様な老人の寝たきりとでは、質が違うんじゃよ。ワシらの様に年を取ると、寝ているだけも身体は酷く衰弱するし、脳への刺激も少なくなる。そう成れば、水が高きから低きに流れる様に、自然と悪い方向へと事態は進んでしまう……」
若い者でも病気に成って寝たきりに成れば、当然身体も弱るが、心も激しく衰弱して行く。孤独。不安。絶望。院内から外出する事の難しい入院生活と云うのは、傍が見ている以上に、本人の精神的な負担は大きい。坂部自身も介護の仕事を通じて、寝たきりに成った人間の辛さを眼の辺りにしている。そして、その家族が抱える問題もだ。
「昔の話じゃが、妻と話をした事があるんじゃ」
「話、ですか?」
「どちらかが寝たきりやボケに成ったとしたら、残った方が殺そうとな……」
「こ、殺す!」
「物騒な話じゃと思うじゃろ?じゃがな、金銭的にも決して潤沢では無い上に、ワシは呼吸器の障害を持っておる。光さんも知っている通り、年々、日本は老人には住み難い社会に成るだけじゃ……」
「……」

