田中は逡巡している。若しも自分が田中の妻と同じ状態に成ったとしたら如何だろうか。色々な答えが浮かんでは消える中、坂部は不吉な考えが浮かび上がりそうに成るのを払拭するかの様に、頭を左右に振っていると、田中がユルユルとした動きで指を動かして喋り出す。
「そこの角を曲がったら病院じゃ……」
悲しげな言葉がポツリと田中の口から漏れる。坂部はその声に従いステアリングを握り直し、今聞いた現実から逃避するかの様にアクセルを踏み込んだ。
*
リノリウムの廊下の端。五階の角部屋に田中の妻が入院している。坂部は、田中の身体を支え乍らゆっくりとした足取りで病室に向う。
田中梅子。ネームプレートには梅子の名前が寂しげに掛かっている。
「光さん……」
田中が坂部を促す。ヒンヤリとしたドアノブ。坂部は静かに扉を開き病室に入る。
窓際。ベッドの上に梅子が点滴に繋がれて横たわっている。ポタリポタリと、点滴が一定のリズムを刻んでは管を通り梅子の体内へと入って行く。田中は寂しげな表情を浮かべてベッド脇に立ち、椅子を二脚取り出し坂部に勧める。
「随分と、細く成りよった……」
抗ガン剤の副作用からなのか、梅子の頭には頭髪は無く、身体にも余分な肉は無い。皮膚の上からでも骨がハッキリと見て取る事が出来る。
「殆ど、喋る事も出来ん状態じゃよ」
「喋る事が出来無い?」
「そこの角を曲がったら病院じゃ……」
悲しげな言葉がポツリと田中の口から漏れる。坂部はその声に従いステアリングを握り直し、今聞いた現実から逃避するかの様にアクセルを踏み込んだ。
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リノリウムの廊下の端。五階の角部屋に田中の妻が入院している。坂部は、田中の身体を支え乍らゆっくりとした足取りで病室に向う。
田中梅子。ネームプレートには梅子の名前が寂しげに掛かっている。
「光さん……」
田中が坂部を促す。ヒンヤリとしたドアノブ。坂部は静かに扉を開き病室に入る。
窓際。ベッドの上に梅子が点滴に繋がれて横たわっている。ポタリポタリと、点滴が一定のリズムを刻んでは管を通り梅子の体内へと入って行く。田中は寂しげな表情を浮かべてベッド脇に立ち、椅子を二脚取り出し坂部に勧める。
「随分と、細く成りよった……」
抗ガン剤の副作用からなのか、梅子の頭には頭髪は無く、身体にも余分な肉は無い。皮膚の上からでも骨がハッキリと見て取る事が出来る。
「殆ど、喋る事も出来ん状態じゃよ」
「喋る事が出来無い?」

