「それでしたら、紙の一番下に会員番号が記入されている筈ですので、それを読み上げて頂けますか?」
「下やと……これか、B―A-KA―0―1417、でええんか?」
「結構で御座います。暫くお待ち下さい」
 保留音。私は適当に調べ物をすると云う前提の元、電話を保留状態にして軽くノビをする。B―A-KA―0―1417。私もフザケタ会員番号を付けた物だ。バカ美味しいな。ハイフンを取り除き、ローマ字をその侭で読み、数字を語呂合わせで読み解けば出て来る読み方だ。欲に眼が眩み溶け切った脳味噌では、購入者を嘲笑う馬鹿馬鹿しい小技すら気が付かない。
「確認致しました。山川貞治様ですね。それでは、サポートを始めさせて頂きます。先ずは、手順を追って説明いたしますが宜しいでしょうか?」
 淡々と話を切り出す。山川が買った情報は、私がDMTと云うヤクで飛んでいた時に考えたキズネタだ。当然、そんな情報でスロットに勝つ事等は100%有り得ない。売り捌いたが最後、どのように云い逃れるかが、この仕事のポイントと云うか醍醐味に成る。この業界は、大なり小なり無数の数の攻略会社は有るが、大体が似た様な状態だ。私は、電話口でノラリクラリと山川の質問を適当に交し、三十分程長話をしていると、山川は「もう少し頑張ってみるわ」と短く宣言して電話を切った。
―お疲れさん
 私は、心の中で山川に舌を出し乍、次のクレームの電話に対応する事にした。

 東京都S区。都心から程好く離れ、適度に不便で程好く便利と云う、分かり難い街に私は住んでいる。駅前の繁華街。私は携帯電話のディスプレイを見て時間を確認する。21時。私は、自宅のマンションに向う足を止め、バスのロータリーの脇に有る雑居ビルに向けて歩き出す。