リアル

だが、実際には五年経てば関連書類を完全に破棄をすると、そう云う訳では無いが、古い毒薬であればある程、関連書類の保管は難しく、流通ルートが露見する可能性はグッと低く成り、その一種の目安と云うのが五年物と呼ばれている毒物になる。
「後は、時を待つだけだ……」
 身体が気だるい。私はベッドに横たわり瞳を閉じて一服点ける。全身が、綿菓子に包まれた様にふわふわとした感触が身体を包み空中浮遊を始める。グッドトリップだ。弛緩した身体の快楽に身を委ね乍ら眼を開ける。天井の照明が蝋の様に溶け出す。色彩感覚が鋭敏に成り、光が七色に輝き全身が蕩ける。最高の高揚感だ。私は脳髄を打ち震わす快楽の海へと身体を投じ、遠のく意識と共に深い眠りに付いた。

 夕日が街を優しく照らし出す。冬の太陽は、夏の時の凶悪な姿とは一変し、大地に、生命に自然の温もりを与えてくれる。
「失礼します」
 長屋の一角。坂部は裏手の駐車場に車を止めて田中陽一郎の元を訪れる。この家の介護に訪れて半年、高齢者の実情を浮き彫りにした家だと云うのが坂部の印象だ。待つ事数分。部屋の中からガタゴトと物が揺れ動く音が響き、木で出来た引き戸がガラガラと音を経てて開く。
「よう来てくれなさったな」
 しゃがれた声。田中がふら付く足取りで玄関に立っている。
「こんにちは」
 坂部は田中の言葉に軽く挨拶をして玄関から中に入る。玄関に靴を脱ぎタタキに上がり部屋に入る。玄関の横にトイレが在り、襖を開けると六畳の部屋が二間続き、突き当たりにはキッチンと風呂が在る。
「お母さん、元気ですか?」
「いんや、難しいなぁ」
 重い言葉。坂部は、田中家の現状は十二分に理解しているが、敢えてその言葉を掛ける。無理に会話の本筋を逸らすよりは良い。