第一章　愚者
「お電話有難う御座います。ＭＡＸ企画です」
デスクの横に座っている男が開口一番元気に電話対応に応じている。引っ切り無しに鳴り続ける電話。業務開始の朝十時に受付けを開始するとが、トータル五回線有るビジネスフォンの回線は全てランプが点灯して回線はパンク状態に成って要る。１～３回線が新規購入の顧客、詰りは商品購入に対しての質問に成り、４～５の回線がクレーム専用の回線に成る。私は、騒々しく働いている同僚を尻目に、デスクの上で思い切りノビをして軽く肩を廻し、クレーム専用回線を繋ぎ応対に出る。
「お電話有難う御座います。ＭＡＸ企画です」
「情報解析部門の片桐を出せや！」
　朝からうんざりする濁声だ。私はデスクに置いている缶コーヒーを一口飲み、男の対応に勤める。
「私が片桐で御座います。お客様、失礼ですが会員様でしょうか？」
「この野郎！抜け抜けと惚けた事を云ってんじゃねえぞ、コラ！」
「行き成り大声で話されても困ります。先ずは、お客様の確認をさせて頂きたいのですが」
「あぁ！」
「今、手元に攻略法を書いた紙はお持ちですか？」
「ちょっと待っとけ！」
　電話口から男が何かを漁る音が聞こえる。パチスロの攻略法。私の職場が扱っているのは、パチンコやスロットのキズと云われる、プログラム上のミスを解析して弱点を炙り出し、確実に大勝出来る攻略法として昇華させ、高額の値段で売り付ける、所謂情報売買を基本にしている会社に成る。だが、現実問題として考えるのであれば、そんな美味しい情報を一般の人間に売ってしまえば、メーカーから対策が入り、使用出来無くなるのは自明の理だ。仮説として捉えるのであれば、その様な情報が本当に存在したとしても、表の社会には絶対に漏れる事は無い。だが、欲に眼が眩んだ人間と、金を引っ張る側との熾烈な駆け引きの末に、客は此方の言い値の情報料を振り込んで来る。情報詐欺。これが、私が糊口を凌ぐ為の一つの職業に成る。無論、真っ当な仕事では無い。
「有ったぞ！この腐れた紙切れが三十万か！あぁ！」