「生憎、俺はこれ以上望まれても困るし、それを叶えてやれない」

 そう言い放つ悠里の瞳は、今まで見たことがないくらい怖くて哀しそうだった。


「悠里……っ」

 悠里は扉を開けて、皮肉たっぷりに笑ってみせる。


「その“お優しい安堂クン”に、ヨロシク」



 いつもなら、「生意気」とか言ってキス一つして終わりだ

でも、見慣れたはずの広い背中は、とても冷たくて───遠かった。




 あたしはドコで間違えたの?

ただただ、悠里に見てほしくて一心不乱だった。


遠くで悠里を呼ぶ女の子の声がして、いつもの“宮村センセイ”の声も後に続く。



 ──何も伝わらなかった。

がんばって伝えたのに、悠里には届かなかった。




 崩れ落ちるように、床にへたり込んでしまったあたしは、たった一人で嗚咽を殺してあふれる涙をこらえるのに必死だった。


「美波、ちゃん……?」


 静かに扉をあけたのは、安堂くんだった。

目が合って、どうしてだか、更に涙がこぼれた。



 安堂くんは何も言わず、あたしの背中をさすり続けてくれた。

小さな教室に響く空調の音が、やけに耳障りだった───



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