「ここ、使っていいのかな……?」

 そういえば、入塾したとき、不安になったあたしも悠里に聞いたっけ。

そうしたら、こういったんだよね。


「教室は教室だろ」

 そのときは、不安もいっぱいあったから、頼れる年上の彼氏で本当によかった、って心底思ったんだよね。


「あれ?美波ちゃん?」

 伺うように覗いてくる安堂くんの顔。

どアップに、思わずドキドキしてしまった。


「え、あ、うん、いいんじゃないかなっ…?」


 良心と意地と、よくわからない感情がぐるぐる心をくすぶって、ごまかすようにテーブルに教科書を広げる。


 小さな教室のせいで時計の針が進む音がやけに響き、緊張と罪悪感が手を震わせる。

そんなあたしを知らずか、安堂くんはまたマイペースにテキストを進めていた。



 本当に、これでいいんだよね?


 覚悟を決めて、歯を食いしばったときだった。


「おい、美波───!」

「ゆ……り…」

 がちゃり、と扉を開けたのは、もちろん悠里なわけで。

でも、悠里も驚いたようだ。


そりゃそうだ、あたししかいないと思ったのだろうけど、今は安堂くんも一緒なのだ。

 ぎゅうっと心臓が縮んだ気さえする。


「宮村先生……?」

 安堂くんの声に、悠里もあたしもハッと我に返る。


「あ、安堂くん、誤解しないでねっ?あの、先生とはちょっと知り合いっていうか……」

 お互い名前で呼び合ってしまったし、バレるわけにはいかないのだ。