「今日はどこに泊まるの?
ネイチャーホテル?」

「そうです。」

 どんぴしゃで言い当てられたところをみると、ここでバスを待っている=ホテルのバスを待っている、ということなんだろう。

「ネイチャーホテルに行くバスはしばらく待ったら来るよ」

「あ、はーい。
ここで待ってます。」

「一人旅?へー。
西表島では女の人の一人旅はめったに見かけないよ。
珍しいね。」

おじさんはさほど友好的でもなく、でも怪訝そうにでもなく、ただ珍しがっている風で、にこりともせずに言った。

「仕事が今まで忙しくて、今回は特別に引っ越し休みということでこんな時期に休みをもらえたんですよ。
友達とかはみんな休みじゃないですしね。」

私はちょっと得意気に言った。

おじさんは、何も言わず、手を額にかざし、目を細めて海の方を見た。

「でも、石垣島は結構女の人、一人で旅行する人も多いって聞きますけど、西表ではあんまりいないですか?」

 と私は聞いてみた。

「ああ、石垣はそうかも知れんね。
でも、一人だったら寂しくはないの?」

「慣れているから平気です。」

 と私は答えたが、良く考えたら、いつも一人でホテルに泊まるのは学会とか仕事の出張の時であって、一人で旅行するのは初めてだった。

一人でよく行動しているつもりだったが、意外とそうでもなかった。

「まぁ人に気を遣わんとのんびりできるのはいいかもねぇ。」
おじさんはそう呟いた。

やがて、次の船が着き、団体客がどやどやと降りてきた。
おじさんは看板を掲げて案内を始めた。

団体客は胸に薄いビニールで出来たバッジをつけて、楽しそうにはしゃぎながらバスの方へ歩いて行く。

化粧ばっちりのおばさん友達同士の四人連れとか、小学生くらいの男の子二人とお父さん、お母さんの四人家族、とか、老夫婦とか、いろんな人がたくさん話しながら通り過ぎていって、バスにみんな乗った。

きれいさっぱり、バスで運ばれて、きっとこれからマングローブに囲まれた川の遊覧船にでも乗るのだろう。