彼に気付くと、自分は立ち上がって、大塚刑事に青年と向かい合う形に置かれた椅子を譲った。

「この青年が?」

「はい。国見豊さんです。水死体の彼女に心当たりがあるそうです」

「殺したのか?」

大塚刑事が言うと、

「違います!」
「違います!」
 
二人がハモって答えた。

冗談なのに、と大塚刑事は心の中で呟いた。
 
豊はともかく、清水くらい、それが冗談であることを分かって欲しかった。
 
が、普段から冗談など言わぬ大塚刑事がいまさらそんなことをたれたって、誰にも気付かれようがないというものだ。