【短編】君しか見えない

「キスしようか?」


抱きしめる腕を緩めて、私にしか聞こえないように耳もとで囁いた。


私は、チャンスと思い、海斗の体を押し返した。


「郁?」


「なんなわけ?」


「郁は、俺の彼女じゃん。」



海斗って、こんなバカだったっけ?


「雪斗、どうにかして。」


「無理じゃね?
海斗は、郁と別れてないんだって。」


「私は、白羽くんとつきあってない。」


「郁。
海斗って、呼んでよ。」


縋るような目。


ヤメてよ。



てか、ただでさえ注目浴びてんのに。


みんな興味津々。


てか、海斗も急になにがしたいわけ?


雪斗も頼りにならない。


どうしよう。


私は、平凡に過ごしたかっただけなんだけど。


もう無理じゃん。


逃げようかな?


今なら、いける。


私は、一呼吸ついてから、走り出した。


それしか、打開策が思いつかなかった。