「おーい、夕凪」

「……」

「聞こえないの〜?」

「うるさい。何回も呼ばなくても聞こえている」

「だって返事ないし」



月夜に聳える大樹の太い枝上で眠っていたのを、若草のくせ毛一つない短髪の少年に起こされ、夕凪はため息をつく。



草可は唯一無二の親友であり、ここ社の国の留守を唯一任せられる頼もしい相手でもあった。



さあっと風が吹き渡り、大樹の葉や大樹の下を流れる透明な水を揺らす。社の国全体が水で覆われている。



月夜に浮かぶ古びた社と聳える大樹



水に浸かる鳥居



幻想的な世界を現す事ができるのは、ここの主であり守人である夕凪だけ。



守人、と言っても夕凪も草可も“人”ではない。



むしろ“あやかし”に近く、けれど“あやかし”という存在でもない。






つまり、そのどちらにも属さない――――