水の中から数分後、水しぶきをあげて夕凪と庵が顔を出すと、大樹の上から草可が軽い口を叩く。



「いやあ〜まさかここの主様が上から落っこちてくるなんて、夢にも思わなかったよ。で、そっちの子供は誰かな?」

「うるさい」



夕凪がむすっとした顔でそっけなく答えた隣で庵が苦笑する。それから、草可に軽く会釈をした。



「ぼくは庵。鬼の末裔、です――夕凪は、崩壊した国で倒れてたぼくを助けてくれた、命の恩人なんです」

「まだ生き残ってたんだね、鬼」

「はい。鬼はすべて絶滅したって、書物や世間でもそうなっているけど、それは虚実なんですよ」

「そっか。僕らの存在を思えば、それも仕方ないね。それはさておき……夕凪、国が崩壊した場所に琥珀姫はいなかったんでしょ?」



急に話を振られた夕凪はめんどくさそうに頷く。



「ああ。琥珀がもしいたのなら、あの現状を放っておく方が不自然だ」

「それもそうだね……夕凪と、庵くんだっけ?水の中からいい加減上がったら?どうも話をする必要がありそうだし、鳥居の上でお茶でもしながら話そうよ、ね夕凪?」

「ああ。それより草可……」

「うん?」

「お前取り寄せしすぎだ。あんなに饅頭も羊羮もいらない」

「え〜お茶タイムは大事でしょ〜」



夕凪と草可はまた言い合いを始め、庵は苦笑いをするしかなかった。