は、走るの速い!!



「な…渚さん、はやっ…待って…。」



私はヘロヘロになりながら渚さんを追いかけた。



すると、渚さんは走るのを止め、近くにある公園のベンチに腰かけた。


やっと追い付いた私はその隣に座った。



「もうだめ…無理なの…。」


それは聞いたことのない、初めて弱音をはいた渚さんの弱い弱い声やった。



「あの時…あの道を選んだのが間違いだったわ…。」


「間違い…ですか?」


私はお兄ちゃん達が別れた理由なんて全然知らへん。

お兄ちゃんは話してくれなかった。




「私、看護師になるのが夢だったのよ。徹もそれをずっと側で応援してくれてたの。」



そうだったんだ…。


「でもね…ある時、私は親に勝手に進路を変えられたの…。」




「親に…?」




「そう…。」


たしか渚さんのお家って…めっちゃ豪邸やったやんな。


親には逆らえないって…。
「初めはね、結婚相手を決められて、危うく婚姻届をだすところだったわ…。」


「そんな…。」



「でもね、いくら親には逆らえない私でも、それだけはずっと拒否し続けたの…。徹がいるからって…。」



そこまでお兄ちゃんを思ってくれていたのに…どうして?



「そしたら、徹との仲は許してもらえたわ。でも、そのかわり…。」



「そのかわり…?」




続きを言おうとする渚さんの顔が曇り始める。




「看護師になるのを諦めて、家の会社で働きなさいって…後を継げって…言われたの。」



たしか渚さんにはお兄さんがいたけど、出ていってしまったんだっけ…。



「私はね、徹と一緒にいれるなら、夢も諦められると思った。」


私だって、啓のためならきっとそうする…。



「だから、徹に諦める事を伝えたの。そしたら…」



渚さんの声がだんだん鳴き声に変わっていく。




「"俺が好きになったのは、そんなお前じゃない"って言われたわ…。」



!!?



お兄ちゃんがそんな事…。