「なっ、泣いてなんてないですっ…
あくびです。ただの。」
ゴシゴシと瞼をこする。
「…」
「へへっ…
今日走ったから疲れたのかな?」
わざと明るく笑ってみる。
だけど正直なあたしの脳は、また涙をこぼそうとしていた。
あたしは必死にこらえて、スカートを握った。
キツく
キツく…
信号が赤へと変わり、2人を乗せた成巳先輩の車が止まった。
その瞬間だった。
あたしの体が包まれた。
おでこが胸にぶつかる。
成巳先輩の大きな胸。
聴こえる鼓動が暖かい。
あたしを包む腕が温かい。
「無理すんなよ。」
「む、無理なんて」
「俺の前では無理すんなよっ!」
シンと静まる車内。
“俺の前では無理すんな”
そんな事、言わないでよ。
言わないで…
今すぐこの腕をほどいて…
じゃなきゃあたし。
またあなたに堕ちちゃうよ…