『――――ね……』




暗闇の果てから声が聞こえる。











『―――んね……』



声がはっきり聞こえてくると同時に、

向こうの方から暗闇を侵食するように、少しずつ光が広がってくる。










『そーちゃん、聞いてる!?』



僕は飛び起きた。



その瞬間、僕の顔を覗き込んでいたちさとの額に激突して、声にならない声を上げる。


突然走った激痛に、僕らはしばらく顔を手で覆いながら悶えた。



『も~~~!
遅くなってごめんねって何回も言ったのに、そーちゃん寝てるんだもん!』


『あはは…、ごめんごめん』



そう言いながら、いつものリビングのソファに浅く腰を掛けていたことに気づく。


ここでうたた寝していたらしい。



ちさとは黄色のパステルカラーの七部袖カーディガンを羽織り、

その中に小花柄のTシャツを着ていて、下に黒レースの短めのスカートとニーハイを合わせている。


髪の毛は、高い位置でおだんごにしている。


この格好、いつだかに見た事がある気がする。



そう思い、ふと見た日めくりカレンダーが指すのは、二ヶ月以上前にめくったはずの、"4月17日"。


ちさとの誕生日を指していた。



どうやら僕は、気を失ったまま記憶を遡っているようだった。